本研究の目的は、植物ウイルスの能力を利用した迅速な過剰発現/発現抑制スクリーニング法を用いて植物の有用形質制御因子を網羅的に探索すると共に、単離した遺伝子の詳細な機能解明を行うことである。このスクリーニングにより、過剰発現又は発現抑制した際に致死となる因子、葉の形態形成を制御している因子、植物体の大きさを制御している因子、葉色を制御している因子、環境ストレス耐性に関与する因子等を網羅的に単離し、一部の遺伝子に関しては詳細な特徴付けを行った。 過剰発現した際に植物葉に細胞死を引き起こす因子として単離したNbLCB2は、スフィンゴ脂質合成経路の第一毅階であるセリンとパルミトイルCoAから3-ケトスフィンガニンを合成する反応の触媒酵素をコードする遺伝子であり、葉の形態形成に非常に重要な役割をしていることが示された。さらに、環境ストレス時の遺伝子発現量を調査した結果、病原体抵抗性反応時に強く発現誘導されることが示され、遺伝子発現抑制植物を用いた解析から、NbLCB2は非宿主抵抗性反応に重要な役割をしていることを発見した。その他、ミトコンドリア外膜の孔(voltage-dependent anion channels)を構成している因子VDAC、小胞体ストレス時のunfolded protein responseに関与する転写因子bZIP60をコードする遺伝子群に関しても詳細な特徴付けを通して、これらの因子が環境ストレス耐性に重要な役割を果たすことを明らかとした。
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