研究概要 |
乾燥地では近い将来,水資源および食料の不足が加速すると予測されているが,これまで行われてきた耐乾性品種の開発や灌漑設備の設置は技術的・経済的要因のため,未だ有効な解決策に成り得ていない.研究代表者は作物の水消費量の抑制を通じた水資源保全と水欠乏下での作物生産性増大を両立させる,極めて簡便かつ安価な栽培学的手法を考案した.具体的には作物の下位葉を切除(以下,切葉処理)することで蒸散量と吸水量とのバランスを最適化して土壌水分の過剰な消費を抑制するとともに,その残存水分を上位葉に集中させることで光合成を高め,少ない葉面積で高い子実生産を達成するというアイデアである.この切葉処理の有効性と機構を検証するため,本年度はICRISAT(国際半乾燥熱帯作物研究所,インド)においてソルガム,中国科学院遺伝および発育生物学研究所農業資源研究センターにおいてコムギを用いて実証試験を行った. 乾燥土壌条件下で栽培した個体に様々な強度および時期に切葉処理を行ったところ,コムギではいずれの処理においても上位葉の光合成速度が増大したが子実収量の増加は認められなかった.また,切葉処理によって水消費量は減少したものの子実収量の減少程度がより大きかったため,水利用効率は低下した.一方,ソルガムでは切葉強度が増すにつれて上位葉の気孔コンダクタンスが増加し(これは葉身の水状態の改善に起因していなかった),それに伴って光合成速度が増加した.茎熱収支法を用いて個体あたりの蒸散速度を測定したところ,切葉個体は無切葉個体よりも蒸散速度が低かった,しかし,子実収量は切葉処理によって増加しなかった.これらの結果より,切葉処理は作物の個体あたりの水消費量を減少させつつ,上位葉の光合成速度を高めることが明らかとなった.今後は個体あたりの光合成速度も勘案しながら,土壌水分量に応じた適切な切葉時期および強度を明らかにする必要がある.
|