温帯果樹は、秋季の低温あるいは短日に反応して生長速度を弱め、翌春の生長再開期まで休眠芽の状態で越冬する。越冬芽は一定期間の低温に遭遇することで自発休眠から覚醒し、好適条件下で萌芽可能な状態となる。本研究では自発休眠の制御機構の解明を目標に、落葉果樹であり我が国で最も開花期が早いウメを材料に、自発休眠芽で特異的に発現している遺伝子の探索を行った。その結果、植物の形態形成に関わる転写因子群であるMADS-box遺伝子をコードすると考えられる遺伝子の単離に成功した。このクローンの全長アミノ酸配列を調査した結果、この遺伝子はSVP/AGL24タイプのMADS-box遺伝子と相同であることが判明した。またデータベース解析より、ウメと同じ核果類であるモモにおいても相同遺伝子が存在することが明らかとなった。そこで、ウメとモモを材料に、多低温要求性品種と少低温要求性品種の側芽における季節的な発現変動を調査した結果、多低温要求性品種と比較して少低温要求性品種では、発現期間が短かいことが示された。また、秋季の長果枝を7℃あるいは20℃のインキュベーターに搬入して、その後の発現変動を調査した結果、7℃処理区でのみ、搬入60日目以降発現量の低下が観察された。またこの遺伝子の発現が低下するに伴って、越冬芽が自発休眠から覚醒していく傾向がみられた。以上の結果より、今回我々が単離したMADS-box遺伝子は低温応答性を有し、自発休眠の制御に関与することが示唆された。
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