研究概要 |
水田における水田植物の現存植生分布を把握し,その空間分布に影響を与える要因を解明した.調査は,茨城県南部の小貝川・鬼怒川の沖積低地とその東に隣接する筑波稲敷台地の小規摸な谷底に位置する水田を対象に行った.その結果,水田が存在する地形単位および整備の程度に応じて,水田の稲刈り後に成立する植生の種組成は異なることが明らかとなった.地形単位に関しては,旧河道や小規模な谷底低地に立地する水田において,他の立地には出現しない希少種の湿性植物が確認された.したがって,これらの立地では,地域の植物相保全を図るうえで注目すべき立地であることがわかった.圃場整備程度も成立植生に影響を及ぼしたが,その程度は自然立地によって異なった.旧河道の水田においては,いかなる圃場整備が進行しても希少種が姿を消す傾向がみられた一方,小規模な谷底の水田では,圃場整備に対する希少種の消失程度が明確でなかった.水田における植物相の保全にあたっては,立地ごとにきめ細かい圃場整備程度を考慮する必要があることがわかった. 非栽培期の水田は希少種を含む湿地植物の生育地である。この立地において,多様な植物が育まれるメカニズムを解明することは,生物多様性に配慮した農業を推進するうえで欠かせない。水稲栽培時期の違いがその後の成立植生に影響を及ぼすという仮説を立てた。稲刈り前後の日射量変化を再現するため,夏季に耕作田から採取し日陰で保存した土壌を,秋季に時期を変えて全天下へ移動し,その後翌春まで発生個体の記録を行った。その結果,秋季には全天下への移動が遅い実験区ほど発芽個体数は滅少したが、春季では,そうした差異がより不明瞭となった。種ごとの個体数の差異は,生活吏(一年草/多年草),発芽適温,発芽から開花結実までの期間などから説明可能だった。
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