硬肉のモモは、成熟に伴い溶質のモモと同様な果皮色の変化や糖度の上昇等が認められるが、エチレン生成の上昇や果肉硬度の急激な低下は見られない。これまでの解析から硬肉のモモではACC合成酵素アイソジーンの一つであるPpACS1の発現が果実成熟期に抑制されているため、成熟期に達してもエチレン生成が起こらず軟化しないことが明らかとなっている。本年度は硬肉、溶質品種からPpACS1上流領域ゲノムクローンの単離と塩基配列の決定を行い、硬肉及び溶質間での変異の有無について検討した。溶質モモ‘あかつき'幼葉から抽出したゲノムDNA用いてインバースPCR法によりPpACS1の上流域を含む部位を単離し、開始コドンより3kbpほど上流の塩基配列を決定した。更に‘あかつき'から得られた塩基配列情報を基に溶質モモ‘川中島白桃'、硬肉モモ‘おどろき'、‘まなみ'、‘有明'の幼葉からそれぞれ抽出したゲノムDNAを用いて、PpACS1の上流領域を増幅後、各品種3クローンずつ塩基配列決定した。その結果同じ品種内でもクローンによって数カ所異なる塩基配列が認められた。品種による配列の違いを比較すると2.6kbp中数10箇所ほど違いが見られたが、硬肉モモ、溶質モモ間での特徴的な違いは認められなかった。塩基配列の違いは主にTの連続配列中の数の相違(2-3数塩基)や、硬肉、溶質に関係なく1塩基の相違などであった。データベース情報から、既に報告されているシス配列と一致する配列も多数見つかったが、果実成熟時期に関するものは認められなかった。以上の結果より成熟時期特異的にPpACS1の発現が抑制される原因はプロモーター領域ではなく、転写因子を含めた更に上流域にあることが推測された。
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