マメ科植物ミヤコグサにおいて、共生パートナーである根粒菌の感染を負に制御するHAR1遺伝子は病原菌であるPseudomonas syringaeの感染抑制にも関与している。HAR1依存的な抵抗性(以下HDR:HAR1 Dependent Resistance)の実体を明らかにするために、本年度はPseudomonas syringae感染時のミヤコグサの葉での組織学的観察を行った。トリパンブルー染色法により、P.s.pv.glycineaおよびpv.pisiを接種したミヤコグサでは約8時間後に細胞死の予兆が観察され、20時間後には部分的に細胞死が観察された。さらに20時間後に観察される実際の細胞死はhar1変異体では野生型植物に比べて観察される頻度が少なかった。このことから細胞死の予兆が観察される菌接種7時間後より前の段階でHAR1依存的な抵抗性による遺伝子発現が起こっていると推測される。これらの知見から現在は菌接種7時間前後の植物体を用いて病原応答遺伝子の発現を解析したところ、大部分の遺伝子はhar1変異体においても発現が観察された。野性型植物ではむしろこれらの遺伝子の発現誘導レベルが低い。 以上の結果から、har1変異体では多くの病原応答機構は正常に保たれており、P.syringae抵抗性に必要な一部の防御応答が誘導できない可能性が推測される。また細胞死のパターンがP.syringaeを接種した領域全てではなく細胞レベルで部分的にしか生じないことから、HDRは研究の進んでいるavr-R遺伝子を介した抵抗性とは異なるメカニズムであることが考えられる。
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