農産物をはじめとする食の安心・安全に対する消費者の関心は年々強まる一方であり、環境の保全や食品の安全性に配慮した農業害虫管理技術の開発・改善がますます求められている。性フェロモンを人工的に合成・散布することで、雌雄間の情報交信を撹乱し標的害虫の増殖を抑える交信撹乱剤は、従来の有機合成殺虫剤の代替となる安全性の高い害虫管理資材として期待され、すでに実用に至っている。ところが、1996年頃から、静岡県の茶園のハマキガ類で、交信撹乱剤に対する抵抗性が認められた。今後の交信撹乱剤のリスク管理に向け、本事例における抵抗性発現メカニズムを解明する必要がある。 研究代表者らは、交信撹乱剤に対する抵抗性を発達させたハマキガ(チャノコカクモンハマキ)を現地の茶園(静岡県島田市)から採集し、実験室内でさらなる選抜・飼育を行うことで、極めて強い抵抗性を示す系統(以下、抵抗性系統とする)を確立した。この抵抗性系統のオスにおける、性フェロモン成分や交信撹乱剤に対する反応行動を観察したところ、本ハマキガの交尾行動の誘起に不可欠な性フェロモン成分(Z-11-テトラデセニルアセテート)を含まない組成の誘引源に対しても、72%の個体が反応した。 このような特異な反応行動を示すオスのハマキガにおける、性フェロモン成分に対する触角の電気生理学的応答を調査した。触角電図法(EAG法)によって性フェロモン刺激に対する触角全体の神経電位を定量的に記録したところ、抵抗性系統と非抵抗性系統の間で有意な差は認められなかった。今後は、触角を構成する毛状感覚子レベルでの電気生理学的応答をより詳細に調査する。 なお、現在市販されている交信撹乱剤は、このような抵抗性系統に対しても十分な効果が期待できるように改良されたものである。
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