天敵類の多くは、植食者(害虫)に加害された際に植物が産生する情報化学物質に誘引されて害虫を発見する。この植物の情報化学物質の生産は、植物の植食者に対する誘導防衛機構であると考えられている。一方、病害に対する誘導防衛を活性化する物質として、プラントアクティベータ(PA:誘導抵抗性活性化物質)が市販されている。PAは植物のシグナル伝達系を活性化するため、植食者の食害に対する誘導防衛反応を植物に引き起こす可能性がある。 天敵誘引性揮発性化学物質の生産に効果の高いプラントアクティベータを絞り込むため、アグリボEX(アグリボ株式会社製)、ジャスモメート液剤(明治製薬)ブイゲット粒剤(目本農薬製)、オリゼメート粒剤(明治製薬)を、天敵誘引性揮発性化学物質増強のためのプラントアクティベータ候補として試験した。コントロールとして蒸留水を用いた。これらの薬剤をインゲンマメ、チャに葉面散布後、インゲンマメにはナミハダニ、チャにはカンザワハダニを加害させた。ハダニ加害10日後に、生産される揮発性化学物質を揮発性物質保持体(SPMEファイバー)に吸着させ、ガスクロマトグラフィー分析装置により比較解析を行った。その結果、インゲンマメでは天敵誘引性の揮発性化学物質の発生は確認されたものの、供試した薬剤による生産量の増加は認められなかった。一方、チャではアグリボEX、ジャスモメート液剤、オリゼメート粒剤では、揮発性物質量に差は認められなかったが、ブイゲット粒剤処理した場合に揮発性物質の生産量の増加が認められた。これらの結果から、プラントアクティベータの種類によって植物に及ぼす影響が異なることが示された。これはそれぞれの薬剤が働く作用機作が異なるためであると考えられる。また、同じ薬剤であっても、植物種によって受ける影響が異なることから、植物の防衛メカニズムの発現メカニズムが異なることが示唆された。
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