田畑輪換作付体系の土壌環境変化に、ダイズ根粒菌がどのような生存戦略で対応しているかを明らかにし、ダイズ根粒菌の生態を把握することを目的とした。水田転換畑および水田圃場から、ダイズ根粒菌をそれぞれ約100株ずつ分離した。分離根粒菌株よりDNAを抽出し、16S-23S-rDNA-ITS領域をターゲットにしてRFLPを実施した。これを基にしてクラスター解析をし、分離菌株の遺伝的多様性および生理的特性を解析した。 PCR-RFLP法によって得られたバンドパターンから系統樹を作成し、分離根粒菌は4グループに分類された。また、分離根粒菌のうち77%はB.japonicumUSDA110菌株と同じグループであり、両圃場にはUSDA110系統が多く生息していることが明らかとなった。分離した根粒菌の多くは、優良根粒菌の指標となるhup遺伝子を持つUSDA110菌株と同じグループであったが、多くの菌株はhup遺伝子を持っていなかった。このことから、根粒菌のhup遺伝子の保有は、長期水田や田畑輪換による還元・酸化という土壌環境の変化と関連性がないと考えられた。 窒素固定活性は、分離菌株によって大きく異なり、二つの菌株は優良菌株USDA110菌株と同程度の窒素固定活性を示し、その他の菌株の活性は低かった。一つの菌株は田畑輪換圃場から分離され、もう一つの菌株は水田8年後圃場から分離された菌株であった。一方、15℃培養において増殖が確認できた分離根粒菌は5菌株のみであり、そのうちの3菌株は水田8年後圃場から分離した菌株であった。田畑輪換圃場での根粒菌は、ダイズと共生増殖できるため単生増殖能力が低くでも土壌中に生存できるが、長期水田における根粒菌は低温や湛水状態の土壌環境でも単生で増殖する必要があるため、単生増殖能力が高い根粒菌が生き残ってきた可能性が高いと考えられた。
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