日本の黒ぼく土は表層に多量の有機物を集積し、自然界の炭素のシンクとして重要な役割を果たしている。黒ぼく土の腐植酸中には多量のアルミニウムが含まれる特徴があることから、アルミニウムの存在が高い腐植集積能に深く関わっていると考えられる。一方、鉄はアルミニウムと同じ6配位のイオンでありながら、アルミニウムほど腐植物質の集積に寄与しない。本研究は、アルミニウム・鉄が関与する腐植酸集積メカニズムを明らかにすることを目的とし、「アルミニウムと鉄の炭素集積能の違いは、金属と腐植酸との錯形成反応が優先するか、あるいは金属同士が重合し新たな鉱物相を生成する反応が優先するか、のいずれかにあるのではないか」という仮説の実証を目指す。 まず、腐植酸の凝集沈澱量の鉄・アルミニウム濃度およびpH依存性を調べた。また、腐植酸と共存する鉄・アルミニウムの局所構造を解析するため、27Al-NMRスペクトルおよびFe、 Al K吸収端X線吸収スペクトルを測定した。 pHが低いほど腐植酸凝集沈澱量が多かったが、同じ金属-アルミニウム比、およびpHでは、鉄-腐植酸に比ベアルミニウム-腐植酸共存系で腐植酸凝集沈澱量が多かった。反応開始24時間後と180日後の腐植酸凝集沈澱量は、アルミニウム共存系ではほとんど変化がなかった。一方、鉄共存系では24時間後の腐植酸凝集沈殿量は、24時間後よりも180日後の方が顕著に少なかった。反応時間24時間では、腐植酸と錯体を形成していた鉄が、180日後には水酸化物として沈殿し、腐植酸を放出したためであると考えられる。X線吸収スペクトルからも同様の傾向が示唆された。
|