高等植物は展開葉(ソース器官)で合成した糖を、根や生長点などの器官(シンク器官)に輸送し、個体維持に必要なエネルギー源を全身に行き渡らせている。さらに、ソース器官とシンク器官との間で情報をやり取りし、糖の輸送量を必要に応じてダイナミックに変化させることで、自らの生育段階や外的環境の変化に対応している。本研究の目的は、炭素動態を経時的かつ非侵襲的に測定することができるPositron Emitting Tracer Imaging System (PETIS)を用いることで、このソース-シンク器官間に存在ける糖輸送の制御機構を明らかにすることである。本年度は、昨年度に開発した糖の転流速度を定量する実験系を応用し、ソース器官およびシンク器官の機能を阻害した際の糖転流速度の応答をPETISにより計測することを試みた。 供試植物として播種後約4週間のイネ(Oryza sativa)を用いた。葉に40〜100 MBqの11C02トレーサーを含む空気を供給し、同化された11Cで標識された糖が葉から根へと転流する過程をPETISにより撮像した。ソース器官およびシンク器官の機能阻害処理は、ショ糖トランスポーターの阻害剤であるp-chlorobenzenesulfonic acid (PCMBS)を葉面塗布および経根投与することで行った。PCMBS処理後数時間に渡り、PETISによる撮像を行った。得られた画像データから各器官における11Cの放射能量の経時変化のグラフを作成し、11Cトレーサーの到達時間を推定する解析方法を用いて、各区での糖転流の速度を算出したところ、ソース器官にPCMBS処理を行った実験区の糖転流速度の低下が確認できた。
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