研究概要 |
ジャガイモなどの地下組織に貯蔵されるデンプンの多くはリン酸化されていることが知られている. デンプンのリン酸化は, デンプンの物性を大きく変化させる. ジャガイモではGlucan water dikinase(GWD)と呼ばれる酵素がリン酸化に関与している. 一方, 細菌が合成するグリコーゲンや, 穀物種子デンプンもわずかにリン酸化されていることが知られているが, この反応に関わる酵素については調べられていない. 大腸菌抽出液からグリコーゲンリン酸化酵素の精製を試みた. Kornberg培地中を用いて培養した大腸菌BW25113株を超音波破砕した. これを, イオン交換, 疎水, ゲル濾過クロマトグラフィーなどに供し, タンパク質の精製を行った. 酵素活性はグリコーゲンとATPを基質として, 多糖に取り込まれたリン酸量から測定した. 精製の初期段階では酵素活性を確認できたが, 精製度を高めるために複数のカラムクロマトグラフィーに供する過程で活性が急激に減少することが認められた. これは, 目的とする酵素が極めて不安定である, あるいは複数のタンパク質の協調作用によって酵素活性が維持されることなどが推定された. しかしながら, 目的タンパク質の同定には至らなかった. 一方, イネ完全長cDNAデータベースから予想されるGWD様タンパク質はジャガイモGWDと比べてN末端領域を大きく欠損した構造(1073残基)であるため, 酵素活性を示さない可能性が考えられた. しかし, イネ葉から調製したRNAを用いてRT-PCRを行ったところ, さらに上流の領域を含む増幅産物を得ることに成功した. その結果, イネGWDは1457残基からなる162 kDaのタンパク質であると推測された. また, 本酵素を大腸菌で発現させたところ酵素活性を示し, リン酸化能を有することが確認された. したがって, 本酵素がイネデンプンのリン酸化に関与していることが推測された.
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