甘味タンパク質ソーマチンの甘味発現部位を明らかにするため酵母Pichia pastorisを発現系として部位特異的変異体の作製を行い、クレフト面に存在する塩基性アミノ酸残基がソーマチンの甘味発現に重要な役割を果たすことを明らかにした。その中でもR82、K67がソーマチンの特異な甘味発現に寄与していることを突き止めた。ソーマチンの甘味発現に必須な構造的要因を明らかにするため、甘味閾値に顕著に影響を与えた変異体について蒸気拡散法にて結晶化を行った。良好な結晶は大型放射光施設SPring8にて解析を行った。まず構造比較のため酵母で発現させたリコンビナントソーマチンと植物由来の精製ソーマチンの結晶化を試み分解能1.1Aのデーターを得ることができた。構造の精密化はWincoot、Shelx1にて行い、R値がリコンビナントソーマチンが10.8%、植物由来ソーマチンが10.98%の最終構造を得た。両者を比較するとアミノ酸残基46番目、113番目の電子密度マップに若干の違いが見受けられたが、両者間に大きな構造の違いは見られなかった。本研究により初めてアルギニン残基の重要性を明らかにしたR82の変異体(R82A、R82Q、R82K)について結晶を作製し、SPring8にて解析を行った。R82Aは分解能1.05A、R82Qは0.95A、R82Kは0.90Aの高分解能のデーターを取得することができた。構造の精密化を行ったところ、R82の1残基変異により、甘味発現に重要な残基であるK67の主鎖の構造が0.5A~1A変化していた。またこれら一連の構造変化によりR82近傍の局所的な分子表面の静電的環現が大きく変化していた。以上の結果から、R82の側鎖の正電荷の厳密な方向性が、ソーマチンの特異な甘味発現を決定付ける要因であると考えられる。
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