酸化ストレスは細胞内のタンパク質の機能を低下させ、細胞周期の停止や細胞死を誘導する。本研究では細胞内タンパク質にジスルフィド結合形成を誘導するdiallyl trisulfideを用いて、ジスルフィド結合形成による細胞応答、とくに細胞周期の停止や細胞死誘導のメカニズムの解明を行った。本年度は、ヒトリンパ腫由来細胞株U937を用い、diallyl trisulfideを処理した後の細胞応答について検討した。Diallyl trisulfideをU937細胞に処理すると、ストレス応答キナーゼであるJNKのリン酸化→Baxの細胞質からミトコンドリアへの移行→ミトコンドリア膜透過性の亢進→シトクロムcの放出→各種カスパーゼの活性化→アポトーシスの誘導が観察された。さらに、JNK経路を活性化するASK1について、その活性化機構を検討した。Diallyl trisulfideは、thioredoxin-ASK1複合体に対し、ジスルフィド結合形成による酸化ストレスを与えることでthioredoxinを解離させ、ASK1活性化を引き起こすことが、ASK1の過剰発現系による検討で明らかとなった。以上のことから、細胞死誘導の際の、diallyl trisulfideの標的タンパク質の一つが、thioredoxinであることが明らかとなった。また、ジスルフィド結合形成タンパク質を検出可能な対角線電気泳動によりdiallyl trisulfideを処理したU937細胞を解析したところ、処理後10分から30分において、未処理細胞には認められない、ジスルフィド結合を形成した複数のタンパク質の存在を確認した。これらタンパク質のいくつかは、diallyl trisulfideが誘導する細胞死などの細胞応答に関与すると考えられた。
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