本課題の目的は、食品中の脂溶性成分について刷子縁膜通過に関わるタンパク質を同定すること、および粘膜通過後の血管あるいはリンパ管への選択的輸送について新たな知見を見出すべく再検討することである。本年度の研究成果は以下の通りである。 1.ヒト小腸Caco-2細胞における脂溶性食品成分の膜輸送に関わるタンパク質の発現調節 ヒト小腸培養細胞モデルであるCaco-2を用いたRNAiによる膜輸送担体候補タンパク質の発現抑制を行うための条件を検討した。Caco-2細胞は遺伝子導入効率が低いため、Caco-2に対しても高い導入効率を示すことが期待される導入試薬を用いたところ、コントロール試験において発現抑制がかかることが示唆されたため、現在FATP4の発現調節を検討中である。また、転写因子に対するアゴニスト・アンタゴニストを用いた候補タンパク質発現量の調節についても検討し、PPARアゴニストであるフィブレート類がFATP4の発現を増強することが強く示唆された。現在は、その他に発現が増強されるタンパク質を検討中であり、また、発現増強後の細胞において脂肪酸その他の成分の細胞取り込みが増加するのか検討している。 2.ラットを用いたリンパ液/血液同時採取系による食品由来脂溶性成分吸収経路の検討 胸管リンパカニュレーションラットを用い、尾部採血によるリンパ液/末梢血同時採取系を確立した。本系において、長鎖脂肪酸によるトリグリセリドおよび中鎖脂肪酸によるトリグリセリドではリンパ液へのカイロミクロン流入量が異なることが確認できたことから、本系は食品成分のリンパ管/血管輸送の選択性を検討するのに適切であると考えられる。これを用いて両親媒性食品成分であるフラボノイドの腸管吸収後の輸送経路の検討を行ったところ、ケルセチンとイソフラボンでは、リンパ液と血液への分配比率が異なることを示唆する結果を得た。
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