甘味料は舌状に存在する甘味の受容体タンパク質と相互作用することが知られてきており、甘味タンパク質も同じ受容体と相互作用することが既に判明している。本研究では甘味を呈すると同時に味覚修飾活性(酸味を甘味に変換する活性)を有するタンパク質ネオクリンを対象とし、その活性のメカニズムを明らかにすることを試みた。 本年は、まずネオクリン分子の表面電荷の重要性を検討した。ネオクリンに存在するヒスチジン残基を全てアラニンに置換したバリアントを作製したところ、この分子は味覚修飾活性を失い、pHとは関係なく甘味を呈する性質を示した。このことから、ヒスチジン残基が味覚修飾活性に重要な役割を果たしていることが示唆された。 またこれまでの研究から、ネオクリンの味覚修飾活性にはサブユニット間の柔軟性が重要な役割を果たしている可能性が高く、シュミレーションではpHによってサブユニットの相対的位置が変わる可能性が示唆されてきた。そこで今回は植物から精製したネオクリン分子および上記のバリアントについて、蛍光測定・円二色性偏光(CD)測定を行った。CDスペクトルは植物から精製したネオクリン分子とバリアントの両方についてどの測定pH(pH3.0〜7.0)でも変わらなかったが、蛍光スペクトルは野生型ネオクリンについてはpH依存的に変化することが確認された。ただし、野生型ネオクリンで見られた蛍光スペクトルの変化はバリアントでは観測されず、蛍光スペクトルの変化が味覚修飾活性発現に伴う構造変化と相関しているものと考えられた。 ネオクリンの味覚修飾活性がpH依存的な何らかの構造変化を伴っていることが分光学的に測定されたのは今回が初めてであり、今後の甘味タンパク質研究に重要な情報をもたらしたと考えられる。
|