80%以上のヒト癌組織に検出され、細胞に無限増殖能を与える酵素"テロメラーゼ"は、癌診断の新たなマーカーとしての利用が期待される一方で、その酵素活性の阻害による癌治療への応用が近年世界的に注目を集めている。我々は、長鎖不飽和脂肪酸(とくにエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸)とビタミンE同族体であるトコトリエノールがヒト大腸癌細胞のテロメラーゼ活性を阻害することを世界で初めて発見した。しかし、それらによるテロメラーゼ活性阻害の分子メカニズムについては明らかになっていない。そこで平成19年度は、長鎖不飽和脂肪酸とトコトリエノールの阻害メカニズムを培養細胞試験により解明することを目的とした。 長鎖不飽和脂肪酸は核内受容体PPARγに作用し、Wnt/βカテニンシグナルを介して癌遺伝子c-mycとテロメラーゼ触媒サブユニットhTERTの遺伝子発現を抑制することで、テロメラーゼ活性を阻害することがわかった。一方、トコトリエノールはTGF-βシグナル(TGF-β1、TGF-β受容体II、Smad)の活性化を介してc-mycとhTERTの遺伝子発現をダウンレギュレートし、テロメラーゼ活性を阻害することを明らかにした。 以上より、長鎖不飽和脂肪酸とトコトリエノールによるテロメラーゼ活性阻害の分子機構の一端を解明した。長鎖不飽和脂肪酸とトコトリエノールはテロメラーゼ阻害を介した癌の発症・進展予防に役立つ可能性があり、また、これらの成果は生化学、食品化学、栄養学にとどまらず、薬学や医学の分野に展開できると考えられ、社会的意義・重要性が高いと言える。
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