研究概要 |
80%以上のヒト癌組織に検出され、細胞に無限増殖能を与える酵素"テロメラーゼ"は、癌診断の新たなマーカーとしての利用が期待される一方で、その酵素活性の阻害による癌治療への応用が近年世界的に注目を集めている。我々は、長鎖不飽和脂肪酸(とくにエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸(DHA))とビタミンE同族体であるトコトリエノール(T3)がヒト大腸癌細胞のテロメラーゼ活性を阻害することを世界で初めて発見した。そこで平成20年度は、長鎖不飽和脂肪酸とT3のテロメラーゼ抑制効果をin vivoで検証することを目的とした。 ヒト大腸癌細胞DLD-1をヌードマウス(BALB/cA Jc1-nu, nu/nu)背部皮下に移植し、DHAまたはT3を胃内ゾンデにより経口摂取させた結果、腫瘍組織の有意な退縮が認められた。また、DHAとT3の投与によりその腫瘍におけるテロメラーゼ活性とテロメラーゼ触媒サブユニットhTERTの遺伝子発現が抑制され、テロメア長の短縮も確認できた。このことから、DHAとT3はテロメラーゼ活性の阻害を介して腫瘍の増殖を抑制すると考えられた。 以上より、長鎖不飽和脂肪酸とT3によるテロメラーゼ阻害作用をin vivoで明らかにした。長鎖不飽和脂肪酸とT3はテロメラーゼ阻害を介した癌の発症・進展予防に役立つ可能性があり、また、これらの成果は生化学、食品化学、栄養学にとどまらず、薬学や医学の分野に展開できると考えられ、社会的意義・重要性が高いと言える。
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