カバノキ科樹木は、人為的撹乱後にいち早く侵入してくる、冷温帯林の代表的な先駆樹種である。中でもウダイカンバは、先駆樹種でありながら300年以上という長い寿命を持ち、材としての価値も高い樹木として知られている。しかし現在、北海道ではウダイカンバ林が様々な昆虫による食害被害を受けている。鱗翅目幼虫のフユシャクガ類は開芽直後から食害を開始するFlush feederだが、およそ10年に1回大発生を繰り返すことが知られている。一方、鱗翅目幼虫のクスサンは夏葉が展開し始める頃に発生し、本来大発生が見られるような昆虫ではない。これまでの研究から、開芽直後の食害に対してカバノキ属樹木は、他の樹種には見られない特殊な防御形質を持っていることが明らかにされた。現在、その防御形質の成分分析や密度の季節変化について研究を進めている。一方で、本来大規模には発生してこなかったクスサン幼虫に対して、ウダイカンバはどのような餌資源なのかについて調べるために、4種の落葉広葉樹(シラカンバ、ウダイカンバ、トチノキ、サワグルミ)を摂食させる実験を行ったところ、ウダイカンバで最も成長が良く、餌資源として優れていることが明らかになった。この傾向は北海道産のクスサンでも岩手県産のクスサンでも同様であった。北海道のウダイカンバ林では近年、クスサンによる大規模な被害が頻発しているにも関わらず、なぜ岩手県ではウダイカンバ林での大発生がみられないのか?について、野外調査と飼育実験を組み合わせた研究を行っている。
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