研究概要 |
本研究は,化石情報が多く,日本を含めた北東アジアの寒温帯林の主要構成樹種であるマツ科樹種のチョウセンゴヨウおよびエゾマツ変種群(Picea jezoensis)を対象として,北東アジアの数万年から数百万年という時空間スケールの中で,その分布域がどのように変化してきたのかをオルガネラDNA解析を基に推論することを目的とした。現在チョウセンゴヨウは大陸部では広域的に優占分布するが,大陸部の本種のミトコンドリアDNA型(ハプロタイプ)は単一の型で占められていた。一方で,本種が散在的にしか分布してない日本で複数のハプロタイプがみられた。このような植物地理学的に極めて興味深いハプロタイプの地理的分布は,過去の大陸部での分布域の拡大・縮小に伴う遺伝的変異の減少,あるいは日本がかつて分布の中心となっていたことによって生じたと推論された。エゾマツ変種群のミトコンドリアDNA解析の結果,あるDNA領域上に極めて複雑な突然変異箇所があることが明らかになった。しかし,その系統地理学的解析については,今後の課題となった。
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