研究課題
森林生態系においては、植物が土壌中の無機態窒素が吸収し、後に落葉落枝として土壌に有機態窒素を供給、土壌中で分解・無機化された窒素が再び植物に吸収されるという形の窒素循環が見られる。植物の種によって窒素利用特性が異なることから、系内の窒素循環は分布する植物の強い影響を受ける。国内の多くの森林下層で優占するササ類・シダ類は次地下茎が非常に発達するという共通した特徴を持ち、その結果として森林の更新動態に影響を与えることが知られている。しかし、その生理生態学的特性、特に窒素利用に関する点については殆ど調べられておらず、ササ類・シダ類が森林生態系の窒素循環に及ぼす影響については未解明の点が多い。本研究では系外へ流出しやすい形態である硝酸態窒素に着目し、ササ類・シダ類の硝酸態窒素利用に関する生理特性を調査し、生態系内の窒素循環においてササ類・シダ類が果たす役割の評価を試みた。ヒノキ林下層で優占するミヤコザサ・ウラジロ・コシダの3種を対象とし、硝酸態窒素を利用する能力の指標として硝酸還元酵素活性(Nitrate Reductase Activity : NRA)を測定した。その結果、コシダではいずれの部位・測定時期においてもNRAが低かったのに対し、ミヤコザサの葉で春・夏に、ウラジロの葉で夏・秋にNRAが高かった。さらに、植物体内の硝酸態窒素濃度を測定したところ、シダ類では全体に低かったのに対し、ミヤコザサの稈・地下茎・根では高濃度の硝酸態窒素濃度が検出された。これらの結果から、対象3種は硝酸態窒素を利用する能力を持つにと、特にミヤコザサ・ウラジロは有効な窒素源として硝酸態窒素を利用していること、ミヤコザサは体内に硝酸態窒素をそのまま蓄積する性質を持つことが明らかとなった。また、3種が硝酸態窒素利用に関して季節的に棲み分け、硝酸態窒素の系からの流亡を防ぐ役割を持つ可能性が示された。
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Trees 22
ページ: 851-859