芦生においては、シカの増加による植生変化がクローナル植物の繁殖に与える影響について調査・解析・発表を行った。まず、大規模トランセクトネットワーク植生調査を用いて、植物群集と希少植物の検出を行い、着生シダ類をふくむ24種のレッドデータブック記載種を確認し、また植物群集は地形によって、4つの群集に分けることが適当であることがわかった。そのうち、シカに採食されやすく、クローナル繁殖しているヒカゲノミツバとモミジガサでは、個々の植物の分布確率に及ぼすシカの影響は異なり、前者ではそれほど影響しないのに対し、後者では大きく影響していることが明らかとなった。加えて、シカが増えているかどうかを示すために、走行中の車からのシカ目撃モニタリング手法を開発した。春には目撃が増え、夏に向かって減少、また日変化として朝夕に目撃がふえるという傾向をしめした。こうした成果を数年行うことにより、シカの個体数増減の一指標になると考えられる。 宅地化や農地化による湿原の劣化とそれにともなうヤチヤナギ群落の減少は渥美半島では認められるが、四日市では認められない。これは、灌水やヨシの仮払いなどの積極的な管理により四日市の湿地が保全されている一方で、渥美半島の湿地は小湿地化にともない、周りの樹種がヤチヤナギを被陰している影響がでていると考えられる。 北海道の湿地についても、一部の湿地で性比の偏りや結実率の低下がみられた。今後はこの要因をさらに調査解明する予定である。
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