本研究は、植生変化がクローナル植物の有性繁殖成功にどのような影響を与えるかを遺伝的手法も用いてジェネットを単位とした個体群生態的始点から明らかにすることを目的としている。 東海地方の地域絶滅危惧個体群である黒河湿地・御池沼沢は、この3年間、個体数の大きな減少はみとめられなかったが、幹の入れ替わりは激しく、クローン成長によって個体群が維持されていることが確認された。また、マイクロサテライトマーカーを用いたクローン構造解析結果より、黒河湿地は幹数が少ないものの、数ジェネットが維持されているのに対し、御池沼沢は幹数が数千あるにもかかわらず、1ジェネットのみであることが明らかとなった。北海道の大集団と比べると、東海地方の集団のジェネット数は非常に少なく、宅地化や農地化により、生息環境が悪いのだろう。また、黒河は確率的に考えられるよりも雄に偏った性比であることが明らかとなり、植生改変に伴う環境要因が性の発現にも効いていると考えられ、現在論文を執筆中である。 芦生に関しては、研究代表者が異動し、1ヶ月間の張り付き調査によるフェノロジカルなデータ採集が困難となったため、対象植物トリカブトなどに訪花するマルハナバチを代用として、シカによる植生改変が生態系に与える影響を明らかにしようと試みた。ところが、マルハナバチは花の少なくなった現在でも、1980年代と同様の遺伝的多様性をコロニーベースで有していた。また、花の豊かな鳥取側の氷ノ山(シカの影響が顕著でない)のハチの遺伝的多様性と比較しても遜色なかった。これらの結果を英語論文とした。加えて、多くのクローナル植物を含む網羅的な植生調査を行い、現在論文を執筆中である。
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