研究概要 |
本研究では, 日本の各気候帯における森林での樹木の水分通道様式の概要を明らかにすることを目的として, 冷温帯から暖温帯にかけて生育する主要な樹種の樹幹における水分通道様式を細胞レベルで網羅的に解析している. 本年度は九州大学農学部附属演習林宮崎演習林(宮崎県椎葉村)において34種の常緑広葉樹を用いて立木状態で水分通道組織に染色試薬を注入した後, 液体窒素を用いて凍結固定し, 凍結試料を液体窒素下で回収し保存した. 凍結試料は凍結乾燥処理し, 顕微鏡用デジタル撮影システムにより水分通道部位を特定した. その結果, 半環孔材と放射孔材, 散孔材, 無孔材それぞれで通道様式が異なった. また散孔材樹種では2種類の通道様式が存在した. 一つは年輪内のすべての領域の道管が通道を行うタイプで, もう一つは早材道管が主に通道を行うタイプであった. 半環孔材樹種では早材の大径道管で主に通道を行っていたが, これらの大径道管は最外年輪しか機能していなかった. 放射孔材樹種では年輪内のすべての領域の道管で通道を行っていたが, 内側の年輪になるに従い機能している道管の割合は減少した. 無孔材樹種では早材仮道管が水分通道を行っており, 晩材仮道管は通道していなかった. これらの知見は常緑広葉樹の二次木部における通道様式が通水要素の配列パターンと関連していることを示している. 昨年度は落葉広葉樹でも同様の関連を見いだしており, 広葉樹全般で木部の組織構造と通道様式が関連していることが明らかにされた.
|