研究概要 |
本研究では,日本の森林における樹木の水分通道様式の概要を明らかにすることを目的として,冷温帯から暖温帯にかけて生育する主要な樹種の樹幹における水分通道様式を細胞レベルで網羅的に解析している.本年度は九州大学農学部附属演習林宮崎演習林(宮崎県椎葉村)において5種の針葉樹を用いて立木状態で水分通道組織に染色試薬を注入した後,液体窒素を用いて凍結固定し,凍結試料を液体窒素下で回収し保存した.凍結試料は凍結乾燥処理し,顕微鏡用デジタル撮影システムにより水分通道部位を特定した.その結果,いずれの樹種においても多くの個体で染料が辺材のほとんどの年輪を上昇していた.この結果は,これまで明らかにしてきた広葉樹散孔材樹種の通道様式と類似しており,針葉樹においても辺材の広い範囲が通道機能を持つことが明らかになった,一方,年輪内の染料上昇様式は樹種により異なり,最も染料が上昇した部位において早材全体の仮道管が染色される樹種(モミ,ツガ),早材の中心部から後半部が染色される樹種(アカマツ),早材の後半部が染色される樹種(スギ),早材の後半部および晩材の一部が染色される樹種(ヒノキ)が存在した.これらの結果から,針葉樹では早材が通道機能を担うとする従来の考え方は不正確であり,樹種ごとに異なる通道様式が存在することが示された.また,昨年度までに解析の終了した常緑広葉樹の通道様式の種間差に関する報告を投稿し,掲載された(Umebayashi et al. 2010).
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