研究概要 |
ヒグマ個体群の空間構造の解明とその被害管理への応用を目的に,北海道東部白糠丘陵地域のヒグマ個体群を対象として,分布中心で繁殖による新規補充が死亡を上回るsource地域として白糠町北部集団(SN)を,分布周縁で繁殖数を死亡数が上回るsink地域として浦幌町集団(UH)を設定し,両地域間の生息密度,性比,遺伝的多様性,集団間の遺伝子流動について検討した. 平成20年度は,新たな調査地域となるSN地域において,生息密度調査のためのルート設定と予備調査,捕獲を伴わない遺伝的試料回収(NGS)のための予備調査を実施した.8〜10月に集中的に踏査を行い,定期巡回ルート(19ルート,85km)の設定およびヒグマの糞(41個)や背擦り木(47本)を発見した.痕跡密度は,当初の予想に反し両地域間で違いが見られない可能性が生じた.平成21年度には両地域で一斉調査を実施し再比較を行う.NGSのための予備調査では,6本の背擦り木にヘア・トラップを設置した.またトラップ設置前に背擦り木に付着した体毛を40試料回収することができた.平成21年度にはトラップ設置数を増やすとともに,頻繁な見回りにより回収試料数を増加させる.NGSのための新鮮な糞の回収も行い,DNA抽出条件の検討を行っている.また,白糠町・浦幌町役場より,駆除個体や農地侵入個体の試料回収の協力関係を構築した. DNA解析については,UHにて過去に回収した試料の解析を進めている.これまでに,白糠丘陵地域におけるヒグマの個体識別や血縁関係推定に有効なマーカーの選択を終えた.この成果は現在論文として投稿中である.またmtDNA多型解析により,SN地域からUH地域への個体の移動実態についても,論文執筆中である.また,糞中DNAの抽出条件の検討については,飼育個体の試料を用いた検討を新たに行うことを検討している.
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