研究概要 |
ヒグマ個体群の空間構造の解明とその被害管理への応用を目的に, 北海道東部白糠丘陵地域のヒグマ個体群を対象として, 分布中心で繁殖による新規補充が死亡を上回るsource地域として白糠町北部集団(SN)を, 分布周縁で繁殖数を死亡数が上回るsink地域として浦幌町集団(UH)を設定し, 両地域間の生息密度, 性比, 遺伝的多様性, 集団間の遺伝子流動について検討した. SN・UHで痕跡調査による生息密度を比較した結果, 農業被害発生時期にはUHで痕跡密度が増加し, 液果・堅果類が利用可能となる秋にはSN地域の痕跡密度が急激に増加する傾向が認められた. 採取した糞の内容物から, 6-9月にUHでは農作物の利用が多いのに対し, SNでは農作物の利用は見られず, 草本・アリ・液果を主に利用していた. この結果は,夏に他地域にいた個体が秋にSN地域へと移動してくること, UHでは夏に農業被害が発生しており, 駆除による死亡率を高める原因となっているという予想を支持する. 遺伝解析については, 捕獲を伴わない遺伝的試料回収(NGS), および駆除個体からの試料回収を両地域にて継続して行った. NGSによる試料の解析の効率化のための条件検討を行っている. これまでに白糠丘陵地域におけるヒグマの個体識別や血縁関係推定に有効なマーカーの選択に関する論文が公表された. 現在, mtDNA多型を用いた両地域間の移動実態に関する論文を執筆中である. また, マイクロサテライトを用いた両地域間の遺伝的多様性と集団間遺伝子交流についても, 駆除個体については解析が終了し投稿準備中であり, NGS試料をもとにした解析を進めている. これらの結果から, 分布周縁で継続的に発生する被害の発生原因を明らかにできる。
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