研究概要 |
ヒグマ個体群の遺伝的空間構造の解明とその被害管理への応用を目的に,北海道東部白糠丘陵地域のヒグマ個体群を対象とし,分布中心で繁殖による新規補充が死亡を上回るsource like地域として白糠町北部集団(SN)を,分布周縁で繁殖数を死亡数が上回るsink like地域として浦幌町集団(UH)を想定し,両地域間の生息密度,食性,個体の移動,遺伝的多様性,集団間の遺伝子流動について検討した. 今年度は,これまでに得られた成果をもとに学会発表および論文執筆を進めた.両地域間の個体の移動については,メスのmtDNAハプロタイプの異所的分布をもとにオスの出生地と駆除による死亡地点を見分ける方法により,source like地域からsink like地域へオス成獣が多く移動していることがわかった。その理由として,分布周縁部のsink like地域には,分布中心部のsource like地域よりも農作物やシカの死体等質の高い採食資源が分布し,かつ高い駆除圧により競争相手が少ないことが考えられた。その結果,分布周縁部は質の高い資源を利用可能であるが,駆除による死亡率が高いというattractive sink like地域,分布中心部は駆除による死亡率は低いが相対的な採食資源の質は低いrefuge like地域になっており,箱ワナを用いた駆除が,分布中心から周縁に向けた適応的でない移動分散を促している可能性が示唆された。このことは,駆除を続けても分布中心部からの移動分散が続くことを意味し,被害が減少したときには地域個体群の存続が危うくなっているという危険を示唆している。適切な被害管理のためには無差別な駆除の見直しと分布周縁部の資源価値を相対的に低くする必要がある。この成果は現在学術雑誌に投稿,査読後の修正中である。マイクロサテライト解析による繁殖実態の解析,生息密度と食性の比較とについては投稿準備中である。
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