研究概要 |
20年度は, 原生林および可能であれば二次林においても太さの異なる枯死木において倒木-多孔菌類子実体-昆虫群集食物網の構造を比較することで, 森林タイプごとに倒木の量と構成を明らかにしたうえで多孔菌類(俗に言うサルノコシカケ)と菌食性昆虫の群集構造が森林間でどのように異なるかを評価することを目的としていた。そこで, 6月に原生林において, 3ヘクタールの調査区を設け, 菌食性昆虫群集の構造を明らかにした。その結果, 21属771個の子実体を採集して9目2992個体の昆虫を得た。このうち鞘翅目昆虫が8科2220個体を占めた。調査地で優占的にみられるPhellinus属(キコブタケ属)やGanoderma属(マンネンタケ属)ではゴミムシダマシ科, ハネカクシ科といった昆虫が優先したのに対して, Polyporus属(タマチョレイタケ属)ではオオキノコムシ科が優占するといったように, 菌の種類によって昆虫群集の構成が異なった。これを明らかにしたことで, 二次林における菌類群集の変異が昆虫群集に及ぼす影響を予測するうえで基礎的なデータを得ることができた。その後, 9月に二次林12林分に100m×10mトランセクトを各1本設置し, 毎木調査を行った。その結果, 二次林タイプ間で構成樹種が異なることが明らかとなった。これを踏まえた上で1月に多孔菌類子実体とそこからの昆虫の採集およびトラップを用いたキノコ食昆虫の調査を行った。こちらのデータについては, 今後解析を行い, 森林植生や菌類相の違いがどのような影響を昆虫群集に及ぼしているかを明らかにする予定である。これらの研究の成果は人為活動による森林環境の変化が, 単なる多様性の変化にとどまらす, 食物網構造をどのように変化させるかを明らかにするものであり, 将来的には人為活動の効果を予測することを可能にしうる点で, 極めて意義深いデータが得られつつある。
|