江別市西野幌のブナ人工材(53本、密度901本/ha、平均樹高20m、平均胸高直径38.3cm、種子産地は新潟県魚沼市栃尾又、明治末期植栽)において、ブナの開花・結実状況を明らかにするため、2006年4月から2008年11月まで受け口面積0.5m^2の種子トラップを12基設置し、2週間から1カ月ごとに内容物の回収と分類を行った。2006年から2008年の総種子数は、少(0.67個/m^2)、多(214個/m^2)、2008年の虫害率はそれぞれ100%、68.9%、97.0%であった。加害が最も大きい種は、ジェネラリストであるナナスジナミシャクと推定され、虫害種子の54〜100%を占めた。一方、スペシャリストのブナヒメシンクイと推定された加害も次いで大きく0〜36%であった。 2007年9月に高枝切りハサミを用いて、8個体から計38本の繁殖枝を採取した。雌花序痕は2000年から遡って判読することができた。雌花序痕率は、個体や年により大きく変動していたが、2001年と2006年はいずれも雌花序痕率が低く、開花抑制が生じたと考えられた。 既報の北海道南部での解析結果では、開花量の年変動は、花芽分化期の気温条件(開花前年の4月下旬から5月中旬の最低気温)と樹体内の貯蔵資源量(前年の開花量)によって生じるとされているが、今回の調査地でも、開花量は気温条件、前年の開花量に対して同じような関係を持つことが示された。このことは、ブナは生息地で経験する気温変動を感受して、花芽分化に対する気温の閾値をシフトさせていることを示していた。
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