貧栄養な土壌環境(ポドゾル)に成立する東マレーシア(ボルネオ島)の熱帯ヒース林(ケランガス林)において、優占する3樹種(Dacrydium pectinatum、マキ科;Hopea pentanervia、フタバガキ科;Tristaniopsis sp.、フトモモ科)を対象に伐採後の萌芽能力について比較を行った。3樹種の萌芽能力は高い順に、Hopea、Tristaniopsis、Dacrydiumとなった。このうちDacrydiumを対象とした伐採から約6カ月経過後の観察では、試験を行ったDacrydium 20個体全てについて萌芽は観察されなかった。一方、萌芽が多く観察されたHopeaについて、伐採前の個体の地際直径と根のバイオマス(乾燥重量)および伐採後の萌芽の元直径と乾燥重量との関係式を作成し根と萌芽のバイオマスの推定値を得た。伐採前の根のバイオマスが大きい(地下部の資源プールが大きい)ほど個体あたりの全萌芽のバイオマスも大きくなるという関係が見られたが、地際直径サイズの大きい個体でも萌芽バイオマスが低いものも存在し、ある程度の直径サイズ以上では萌芽能力が減少する傾向もみられた。異なる期間で行った2回の伐採試験では、残存するHopeaの幹のデンプン濃度が伐採前よりも有意に低くなる一方、窒素濃度は有意に高くなった。以上のように、本調査地において高い萌芽能力を示した優占種はHopea 1種のみであり、Hopeaの萌芽頻度は地下部の資源プールの大きさに概ね依存していた。このことから本調査地の熱帯ヒース林は撹乱後の萌芽による植生回復能力は全体として低く、伐採や火入れなどの人為撹乱に対して脆弱であることが示唆された。
|