貧栄養条件下に発達する熱帯林において伐採や火入れなどの人為撹乱後の植生回復能力を評価する目的で、東マレーシア(ボルネオ島)、サバ州ナバワンの熱帯ヒース林の優占種3種(マキ科のDacrydium pectinatum、フタバガキ科のHopea pentanervia、フトモモ科のTristaniopsis sp.)を対象に、萌芽特性および更新に関連する実生の特性を調べた。DacrydiumとTristaniopsisの実生はHopeaと比べて根への配分が大きかった。Tristaniopsisの実生では養分吸収効率の指標とされる細根の比根長が他の2種よりも大きかった。幹の伐採から6-8カ月後のHopeaの萌芽頻度は個体あたり平均で10.8個であったが、Tristaniopsisの萌芽頻度は極めて少なく(平均0.3個)、Dacrydiumでは全く萌芽が観察されなかった。Hopeaは伐採時の幹と根および実生において他の2種より高い非構造性炭水化物濃度および窒素濃度を示し、貯蔵炭水化物と窒素がHopeaの高い萌芽能力を支えていることが示唆された。本調査地の熱帯ヒース林では、優占種3種のうち高い萌芽能力を示したのはHopeaのみであり、萌芽による植生回復はあまり期待できないことが示された。以上の結果から、実生による更新が植生回復にある程度寄与すると考えられるものの、貧栄養条件下に成立する熱帯ヒース林が人為撹乱に対して脆弱であることを示唆している。
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