今年度は以下の2つの実験を行った。 1. 系統内・系統間の交配で得られた子孫におけるボルバキアの遺伝子量の比較 ボルバキア感染系統の雌雄交配により得られた子孫(++)と、感染系統と非感染系統の雌雄交配により得られた子孫(+-)を用いて、両者のボルバキアの遺伝子の量を比較した。その結果、前者は後者の2倍近い量のボルバキア遺伝子を持っていたことから、マツノマダラカミキリから検出されるボルバキアの遺伝子は、マツノマダラカミキリの常染色体上に存在することが示唆された。 2. マツノマダラカミキリの染色体上におけるボルバキア遣伝子の位置の確認 マツノマダラカミキリの染色体上にボルバキアの遺伝子が存在することを視覚的に確認するためFISH解析を行った。その結果、マツノマダラカミキリが持つ10本の染色体のうち、大きい方から数えて7番目の常染色体上にボルバキアの遺伝子があることが明らかとなった。 本研究によって、細菌としてのボルバキアがマツノマダラカミキリに感染しているのではなく、ボルバキアの遺伝子がマツノマダラカミキリの染色体上に存在している、すなわちこの2つの生物間で種を超えた遺伝子の水平転移が起こっているという事実が明らかとなった。これまで昆虫を含む高等生物では、遺伝子水平転移の実証例が極めて少なく、非常にまれな現象だと考えられていたことから、本研究により得られた成果は、今後、高等生物の生命活動や進化に与える遺伝子水平転移の影響を考える上で大変貴重な知見であると考えられる。
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