沖縄島北部のやんばる地域に固有のキツツキである絶滅危惧種ノグチゲラが、リュウキュウマツ(以下マツ)枯死木に営巣・産卵し、繁殖に失敗する事例が観察されるようになっている。やんばる地域では、戦後の拡大造林により、有用樹種としてマツが盛んに植栽されたが、侵入病害であるマツ材線虫病被害によって大量に枯死している。これまで、マツ材線虫病の被害防除に関する研究は多く行われてきたが、本病の発生が希少生物に与える影響についての研究は行われてこなかった。そこで、本研究では、ノグチゲラの繁殖成功率や、営巣木選択に関する調査を行い、人工植栽とマツ材線虫病の侵入という二段階の人為を介して大量発生しているマツ枯死木が、ノグチゲラの営巣活動に対してエコロジカルトラップとして作用しているかどうかについて研究を行った。 マツ枯死木を営巣木としたノグチゲラの繁殖成功率は、一般的な営巣樹種であるスダジイ(イタジイ)を営巣木とした場合と比較して有意に低く、マツ枯死木がノグチゲラにとって質の低いハビタットであることが明らかとなった。繁殖失敗の主な要因は、営巣期間中の巣木の倒壊、ハシブトガラスによる巣部の破壊といった、営巣木の強度不足に伴うものであった。 営巣木周辺の樹種構成と営巣木として利用された樹種を比較すると、マツ枯死木の営巣木としての利用率は、他の樹種よりも高く、ノグチゲラにより選好されていることが明らかとなった。これまでの研究により、マツ材線虫病により大量発生しているマツ枯死木は、ノグチゲラにとって繁殖成功率が低いにもかかわらず、営巣木として好まれていることから、エコロジカルトラップとして作用していることが示唆された。
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