研究概要 |
本研究の目的は、乾燥性の島嶼生態系への移入樹種が、突発的な降雨に対してどのように水を利用しているかを評価することにある。平成21年は主に以下の実験・解析を行った。 小笠原の乾性低木林を構成する主要な在来種であるヒメツバキ、アカテツ、テリハハマボウと、乾性低木林への移入樹種であるキバンジロウの、それぞれの灌木で,グラニエセンサーにより樹幹の樹幹流速の測定を行った。同じ期間、土壌含水率と日射量を測定した。得られたデータのうち,昨年度まで行った室内実験で設定した長期間(15日以上)の乾燥が起きた期間の樹幹流速を解析対象とした。その結果,乾燥時の平均樹幹流速はテリハハマボウ>ヒメツバキ>キバンジロウ>アカテツの順であり,在来種であるテリハハマボウで3.7x10^<-4>mm/hだったのに対し,移入種のキバンジロウは2.5x10^<-4>mm/hであった。一方,突発的な降雨後の平均樹幹流速はテリハハマボウ≒キバンジロウ≒ヒメツバキ>アカテツの順であり,テリハハマボウが3.5x10^<-4>mm/hだったのに対し,キバンジロウは3.2x10^<-4>mm/hであった。 このことは,在来種の樹幹流速は水環境変動に対して恒常性を保つのに対し移入種のキバンジロウは,降雨によって樹幹流速を増加あるいは回復できることを示している。昨年までの結果において,キバンジロウは乾燥時に木部通水系のキャビテーションを起こしにくい一方,浸透調節能力が他樹種に比べて高いことがわかっている。これらの結果より,水が制限要因となる乾性低木林においては,キバンジロウは突発的な降雨への反応性を高めることで移入を可能にしていることが明らかになった。
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