研究概要 |
1. アカマツ天然集団における2年間の当年生実生の動態(岩泉ほか2010) 天然集団内の遺伝的動態に影響しうる、アカマツの更新動態を把握するため、2007年及び2008年の2ヶ年にわたり、当該調査集団内の、アカマツの林冠下(C区)と倒木の根返り跡(D区)にそれぞれ実生調査方形区を設置し、アカマツ当年生実生の消長を調査した。各年秋までの実生の生存率は、調査した2ヶ年ともに、D区(50.0~61.3%)のほうがC区(3.1~6.5%)に比べ高い値を示したことから、アカマツ天然林内での実生更新は、根返り跡のような、林冠が疎開され、林床が撹乱された箇所において可能であると推察された。 2. アカマツ天然集団の種子散布段階における遺伝変異の年次間異質性(Iwaizumi et ai. 2010a, b) 上記集団において、散布種子段階における花粉親及び種子親由来の両配偶子群の遺伝変異やその遺伝的寄与を把握するため、2003年~2007年の5年間で採取された自然散布種子(計1,576種子)を対象に、胚と雌性配偶体(種子親由来の半数体組織)の組織別にDNA分析を行い、種子の各配偶子を正確に区別してその年次間での異質性を評価した。計10配偶子群(2由来親×5ヶ年)間での遺伝的異質性を主座標分析及び二元配置分子分散分析(Two-way AMOVA)により解析したところ、配偶子群は由来親間での遺伝的な変異が大きかった。また、年次間の遺伝的異質性は種子親由来の配偶子群のほうが大きかった。以上のことから、当集団の散布種子段階における遺伝変異の多様性には、1)配偶子群の由来親間での遺伝的異質性、2)種子親由来配偶子群の年次間での遺伝的異質性が大きく寄与しており、多数回の繁殖イベントにわたる遺伝子流動の寄与を評価する際には、花粉飛散と種子散布という遺伝子流動の両プロセスを、複数年次にて同時に把握する重要性が示唆された。
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