研究概要 |
木材の接着を説明する重要な考えの1つに、木材用接着剤が木材組織へ浸透し、そこで固化することで発現する機械的接着がある。この考えに沿って、レオロジー流動を示すエマルジョン系接着剤が、どのように木材組織へ浸透するか解明するのを本研究課題の目的とする。 課題1:エマルジョンを変えた数種のAPI接着剤を対象として、その硬化初期におけるレオロジカル挙動をレオメータを用いて観察した。本検討から、経験的な事柄に理論的説明を与えた;EVAは初期接着力を得るのに有意であり,SBRは高い投錨効果を得られる可能性がある。EVAを用いたAPI接着剤はSBRでのそれより2倍早く損失正接が平衡に達する(EVA:SBR=0.7:1.5時間)。SBR系は固化が遅い分、木材細孔に浸透する可能性が高いことを、金丸競の浸透理論式から導いた浸透係数の比較から導いた(EVA:SBR=37:67)。 課題2:皮膜状に成形したAPI接着剤の、表面および断面を走査型プローブ顕微鏡を用いて観察した。一週間経過後あたりから表面形状が変化し、エマルジョン粒子の上にしわが観察された。API接着剤の構成成分単独で調製したフィルムではこの傾向が見られず、これは接着剤の硬化反応に由来すると考えられる。硬化反応で生成するイソシアネート化合物がフィルム表面で誘導体化するであろうと推定した。これを確認するために、フィルム試料の断面を位相像で観察した。空気側に近い層では、包埋樹脂との境界が明確に観察できず、その硬度は同等である。イソシアネート誘導体は他成分と比べて硬く、従ってフィルム表面にユリアなどが偏在化を支持している。一方で、中層はエマルジョンと思われる球状の位相像がみえた。表層へイソシアネート化合物の局在化は、接着強さへの関与が示唆される。
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