スベリンは芳香族部分と脂肪族部分から構成されているが、前者の構造は後者に比べ不明な点が多く、その生合成は不明である。 スベリン芳香族部分の構造を予測するために、細胞内生合成を模倣したモデル化合物の重合実験を行った。基質であるフェルラ酸メチルと16-0-フェルロイルオキシヘキサデカン酸は、フェルラ酸とメタノール、フェルラ酸と16-ヒドロ1キシヘキサデカン酸をそれぞれエステル化して合成した。これらを西洋ワサビペルオキシダーゼにより脱水素重合し、生成物を各種クロマトグラフィーにより分離・精製し、MS及びNMRにより構造解析を行った。フェルラ酸メチルニ量体のうち、最も収量の多い成分は、β-5'フェニルクマラン型2量体であった。また、16-0-フェルロイルオキシヘキサデカン酸の脱水素重合物にもβ-5'フェニルクマラン型2量体が含まれることが示された。このことからスベリン芳香族部分には、これまでの研究で示されたβ-0-4'型以外にも、β-5'型も結合様式として存在することが示唆された。 また、抽出成分を除いた外樹皮粉にスベリンの高分子エステル結合を分解する塩基性メタノリシス処理を行い、分解物の分析を行った。アベマキ及びコルクのメタノリシス生成物をゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量分布を測定した結果、両樹種ともにポリスチレン換算で、約2500、1200、1000、600、300の5つの物質の存在が示された。また、蛍光検出器によるクロマトグラムから、分子量約2500の物質は非常に強い蛍光を発する物質であることが示された。これまでに樹皮の分解物から、このような強い蛍光を発する物質の存在は報告されていない。この物質の解明は、樹皮に特異的に含まれるスベリンの化学構造の解明、及び樹皮の応用利用を確立する上で、重要な物質であると考えている。
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