北米で2年前に、既存の銅系水溶性防腐剤(ACQ、CuAz等)とは全く異なる概念の薬剤[MCQ(微粉化した炭酸銅+酸化鉄)]が開発された。これらの有効成分は基本的にACQやCuAzと同一であるが、前者がアンモニア性銅(銅イオン)であるのに対し、MCQでは水に不溶性のナノ粒子を採用しているのが最大の違いである。 薬剤の木材中における分布状態は、保存効力に直接関係することから、(1)ナノ/サブマイクロ粒子の木材への注入性とその材内分布、(2)仮道管細胞壁中(ポアサイズ<10nm)へのナノ銅粒子の浸透の可能性、など未解明の点を明らかにする必要がある。この研究では、X線分光器(EDX)を装備した汎用型および高分解能の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、処理材中のナノ粒子の微細分布を可視化する際に求められる最適分析条件の検討を行った。 汎用型SEM-EDX(加速電圧:15kV)による分析の結果、放射組織と仮道管の内腔面、および有縁壁孔の壁孔室内において、顆粒状の銅および鉄粒子がほぼ同じの個所に分布し堆積していることが示されたが、試料のドリフトやビームダメージが生じた。一方、高分解能SEM-EDX(15kV)ではドリフト補正ソフトを導入し、両元素のK線だけではなく、低エネルギー側のL線を用いたマッピング分析についても検討し、L線を用いて空間分解能を大幅に向上させる分析条件を明らかにした。さらに、低加速電圧(5kV)での分析条件を検討し、ビームダメージが大幅に軽減されることが分かった。以上の結果、高分解能SEM-EDXでは、銅と鉄のナノ/サブマイクロ粒子を、それぞれ分離してマッピングすることが可能になり、汎用型SEM-EDXの空間分解能では、ほぼ同様と見なされていた両元素の材内分布が、実際には異なることを明らかにすることができた。
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