1. 受容体結合ペプチド(VRBP)の結合試験 : 昨年度大腸菌発現系を用いて作製した組み換えパーチVRBPを用いて、パーチ卵巣由来の可溶化細胞膜に対する結合試験を行った結果、予想に反して本組み換え蛋白は結合能を示さなかった。今後、真核生物発現系を用いるなど、機能的VRBPの作製に発現系の検討が必要と考えられた。 2. VRBPに対する特異抗体の作製および性状解析 : 組み換えパーチVRBPを家兎に免疫し、抗血清を作製した。作製した抗VRBP血清は、ウェスタンブロッティングにおいて、計12目13種の魚類および両生類のビテロジェニン(Vg)と考えられる高分子ペプチドと反応性を示した。このことは、魚類のみならず、卵生脊椎動物全般にわたり、Vg分子中の受容体結合領域が構造的に保存されていることを示唆した結果となった。また作製した抗体は魚類繁殖学分野または環境毒性学分野等の研究において、様々な動物種のVgの検出を容易にするユニバーサル抗体であり、同研究分野の発展に大きく寄与すると考えられた。 3. 多型Vgの取り込み機構 : ボラの各種卵黄蛋白(リポビテリン、フォスビチン、β'成分)について、卵成熟に伴うこれら蛋白の分解過程を定量的に観察し、由来するVgサブタイプや各卵黄蛋白クラスの生理機能に関する知見を得た。この際各Vgサブタイプの血中量と卵への取り込み量は相関することが明らかとなったが、本種のVg受容体の多型性については今後の課題とされた。一方、パーチではリガンドブロッティングを用いた実験により、VgAとVgBに各々特異的な受容体の存在が示唆されたが、VgCに特異的な受容体の存在は確認できなかった。以上の結果は、多型Vgの受容体結合特性に関して、リガンドばかりではなく受容体側にも多型性を見出した初めての研究例であり、魚類の卵形成機構に新たなパラダイムをもたらすものと考えられた。
|