本年度は、延べ12回の調査を実施した。そのうち3回の調査で、マアナゴの生息に影響を及ぼす溶存酸素量と生息可能な溶存酸素量の境界を横断するように漁具が投入された。溶存酸素計の値からは、連続的に2.0ml/Lを下回ると筒に入ったマアナゴのほとんどが死亡することが確認された。特に海底の水塊の移動が大きいと推測される大潮とその前後の時に、死亡した状態で漁獲されるマアナゴが多数見られた。これは、漁具を投入したときにはマアナゴが生息可能な環境であったが、マアナゴが筒に入った後に貧酸素水塊が大きく移動してきたことにより、広い範囲(複数の漁具)でマアナゴが死亡したと考えられた。このことから、貧酸素水塊がマアナゴの漁場形成を制御していることが裏付けられた。また、溶存酸素量が一時的に2.0ml/Lを下回る場合でも、一筒当たりの漁獲量が多い時、ヌタウナギと混獲された時、漁具が他船の漁具と絡まり引きづられ筒の入り口を泥が塞いでしまった時にマアナゴが死亡した状態で漁獲される確率が高くなることが確認された。 さらに、本研究ではマアナゴが筒内に入る瞬間を小型の水中カメラや手製の記録計を用いることで記録することを試みた。その結果、約40%の筒で漁具投入後1時間以内にマアナゴは筒内に入ることが確認された。漁具投入後、短時間にマアナゴが入筒することから、投入後の貧酸素水塊の動きが予測できれば、漁具の回収時間を調整することで、漁獲過程でのマアナゴの死亡を防止することも可能と言える。東京湾では溶存酸素の観測値を基にした溶存酸素の分布予測図がインターネット上で公開されている。今回の研究結果は、このような分布予測図を利用することで、貧酸素水塊が発生する時期でも、最適な漁場や操業時間の選定が図れることが明らかにされた。
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