研究概要 |
無殻渦鞭毛藻Cochlodinium polykrikoidesは有害赤潮を形成し,西日本や韓国沿岸域において近年大きな漁業被害を引き起こしている。本種の赤潮は海峡を越えて移動することがマレーシア・フィリピン,そして韓国・日本間で報告されている。したがって,例年西日本沿岸域で高水温期に出現する本種赤潮の由来を特定するためには,種内系統群レベルでの分布海域を特定し,それぞれの海域における出現の特徴を把握する必要がある。本研究は,形態形質に基づいて本種を類似種と明確に区別した上で,LSUrDNAに基づく種内系統群(ライボタイプ)を識別し,ライボタイプそれぞれの分布海域を明らかにするものである。現在までに,形態的・遺伝的形質の違いより有害種C. polykrikoidesと識別することで,類似種Cochlodinium sp.を新種(Cochlodinium fulvescens Iwataki, Kawami et Matsuokaとして記載報告した。無殻渦鞭毛藻C. fulvescensはC. polykrikoidesと同様に連鎖群体を形成するCochlodiniumの一種であるが,細胞サイズ,葉緑体の形状,縦溝の位置より同種と明確に識別できる。LSU rDNAに基づくC. polykrikoides種内の分子系統解析では,アジア産株は少なくとも3つのライボタイプ,1)日・韓国・香港,2)フィリピン・マニラ湾,日本の一部,3)マレーシア・サバ,に識別できることが分かった。本種は太平洋西岸域ではマレーシアから日本まで分布することが知られるが,この結果は,例年西日本と韓国に出現する本種赤潮はマレーシアやフィリピンなど東南アジアから流れ着くものではなく,日本や韓国の沿岸域で越冬した細胞が増殖したものであることを示す。
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