研究概要 |
無殻渦鞭毛藻Cochlodinium polykrikoidesは有害赤潮を形成し,西日本や韓国沿岸域において近年大きな漁業被害を引き起こしている。本種の赤潮は海峡を越えて移動することが報告されているため,例年西日本沿岸域で高水温期に出現する赤潮の由来を特定するためには,種内系統群レベルでの分布海域を把握し,分布海域ごとに出現の特徴を調査する必要がある。本研究は,形態形質に基づいて類似種と明確に区別した上で,LSUrDNAに基づく本種の種内系統群(ライボタイプ)を識別し,ライボタイプそれぞれの分布海域を明らかにするものである。前年度までに,形態的・遺伝的形質の違いよりC.polykrikoidesの類似種1種をCochlodinium fulvescensとして新種記載するとともに,同種を識別した上でLSUrDNAに基づく系統解析を行い,C.polykrikoidesは1)東アジア,2)フィリピン,3)北中米,の3つのライボタイプに識別できることを明らかにした。長崎県上五島に出現した光合成性Cochlodiniumについても形態比較を行った結果,この株はC.polykrikoidesではなくKofoid and Swezy(1921)によりC.geminatumとして報告されている種と形態形質が一致した。分子系統解析の結果では,同株はC.polykrikoidesとC.fulvescensからなる系統群とは類縁を示さず,狭義のGymnodiniumの系統群に含まれた。さらに,長崎県大村湾より採取したCochlodinium cf.polykrikoidesと同定できる渦鞭毛藻シストのLSUrDNA配列を単細胞PCR法を用いて決定したところ,このシストは上五島産株と単系統群を形成した。この結果は,C.cf.polykrikoidesとして世界各地より出現報告されてきたシストはC.polykrikoidesのものではなく,この狭義のGymnodiniumの系統群に含まれる種が形成することを示す。出現する本種赤潮の分布海域に加え,シスト-遊泳細胞の対応関係の一部を明らかにしたこれらの成果は,本種の越冬海域調査に始まる赤潮形成メカニズムを解明する上で有用である。
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