本研究では、レントの扱いに焦点を当て、ITQ制度の妥当性を経済的な観点から評価し、本制度が異なる市場価値を持つ各魚種に対して実効性のある漁獲管理として機能しうるのか検証した。これに、ITQ制度導入当初の経緯も併せて整理した。本目的を明らかにするために、3つの課題を設定した。 まず、ITQ制度導入の経緯とその後の展開の整理である。ここでは、漁獲割当の初期配分の全体像を描きつつ、NZ国・水産省が本制度の導入に当たって、水産業者の特定化を推進し、マオリ族との兼合いでその後の制度設計が変更されたこと、等を示した。 次にレントによる漁獲管理費用の補填可能性である。NZ国・ITQ制度下の漁業活動によるレント(地代)を推計したところ、同国・漁業省予算額を大幅に上回ることがわかった。その大半は、特定の市場性の高い魚種・ストックによって生み出されていたことがわかった。このことから生態系の保全の観点からは、市場性の低い魚種の管理がこれら市場性の高い魚種のレントに依存可能な範囲に限定されると示唆された。 そして、獲制限の実効性に対する市場価値の影響である。分析の結果、まず超過漁獲の罰金水準である見倣評価額は漁獲抑制よりも水揚げ奨励として位置付けられていたこと、つぎに大半のストックでは漁獲割当の設定内で漁獲量が収まっていたこと、そして継続的に超過漁獲が発生している魚種において、単価に比べて一定以下の見倣評価額水準であれば、超過漁獲率が大幅に高くなるケースが生じていたこと、がわかった。
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