本研究では、サケ人工種苗の健康診断技術を開発することと、正確な種苗の飼育条件を設けることを目的とした。平成20年度には、(1)健康診断指標の確立及びその基準値の決定と、(2)ふ化場で生産されている種苗の健康診断実施と適正飼育条件の決定を行った。 人為的に調整した様々な飼育密度及び溶存酸素量の環境下で種苗の飼育実験を行い、健康悪化に伴う生理学的変化を明らかにした。その結果、健康悪化に伴い、体全体ATP合成酵素遺伝子(ATPaseRNA)の発現量減少及びATP量の増加が起こり、次いで従来魚類の健康診断に用いられてきた指標が変化することが明らかになった。この結果から、ATPaseRNAの発現量及びATP量が健康診断の指標として活用できることが示唆された。さらに、この両指標の健康基準値の検討を行ったところ、ATPaseRNAの発現量は4fmol/μgtotalRNA以上、ATP量は10-100pmol/gとなった。 北海道内のA孵化場で生産されている種苗をサンプルとして、(1)で確立した指標と健康基準値を活用した健康診断を行った。その結果、サンプリングした11群の稚魚のうち7群で健康状態が悪化していると判定された。この11群の飼育池における飼育密度、溶存酵素量とATPaseRNA発現量の関係を調べたところ、飼育密度30kg以下、溶存酵素量7ppm以上の時、ATPaseRNA発現量が4fmol以上であった。この結果から、サケ人工種苗の適正飼育基準は飼育密度30kg以下、溶存酸素量7ppm以上となることがわかった。
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