研究概要 |
有害藻類赤潮の維持・輸送機構に影響を与える夏季の海洋環境を明らかにするために,対馬海峡周辺海域で船舶観測を行った。対馬海峡周辺の夏季表層では植物プランクトンの増殖に必要な栄養塩が枯渇しており,亜表層(30m深付近)に形成された栄養塩躍層以深で濃度が高かった。また,クロロフィル(植物プランクトン色素)濃度は亜表層で極大層を形成しており,栄養塩が枯渇している表層では極めて低かった。Cochlodinium polykrikoides赤潮が山陰沿岸に漂着した2003年夏季,及び隠岐諸島に漂着した2007年夏季の衛星クロロフィル・水温画像を調べた結果,赤潮とみられる高クロロフィル濃度域は移動しながら表層で2週間以上継続しており,高濃度域は低水温域と一致していた。このことは,栄養塩が枯渇している表層に亜表層以深の栄養塩が供給され,C. polykrikoides赤潮が維持されたことを示唆している。今後,表層への栄養塩供給の要因を検討することで赤潮の維持・輸送機構解明につながると考えられる。 九州大学応用力学研究所で開発された日本海海況予報モデルによる流動場計算結果(水平解像度1/12度)を用いて,2003年及び2007年のラグランジュ輸送モデル計算を行った。クロロフィル衛星画像で濃度1μM以上の海域に赤潮を想定した粒子トレーサーを配置し,その後の粒子の移動をシミュレーションした結果,衛星画像で確認された高クロロフィル濃度域の時空間変動と良く一致した。この計算結果より,2003年及び2007年に山陰沿岸一隠岐諸島で発生したC. polykrikoides赤潮は,韓国沿岸で発生し,対馬暖流等によって日本沿岸に受動輸送される海流依存型赤潮であった可能性が高く,赤潮被害防止のためには人工衛星を用いた広域モニタリングや赤潮原因種特定のための観測体制構築が必要であることが明らかとなった。
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