対馬海峡周辺観測で得られた水温-栄養塩関係式から栄養塩分布を推定し、既往知見で明らかとなっている増殖速度や環境要因に対する応答を用いて、プランクトン密度の増減を考慮した計算を行った。2003年以外の発生年(2002、2005、2007年)には、韓国沿岸での初期細胞密度と比べて山陰沿岸(2007年は隠岐諸島)到達時に細胞密度は減少しており、この原因として、輸送途中において表層栄養塩がほぼ枯渇していたため増殖できず赤潮は徐々に薄まりながら輸送されたことが考えられた。韓国沿岸での初期細胞密度からほとんど減少せずに山陰沿岸に到達した2003年についても表層への栄養塩の供給は乏しく、小さい死亡率を仮定した場合のみ個体群を維持できるという結果となった。本種の生理生態学的特徴として日周鉛直移動や混合栄養が報告されていることから、今後は、輸送途中での個体群のサンプリングや室内実験等を組み合わせることで、赤潮維持機構をより詳細に検討していく必要がある。 昨年度提示した発生シナリオをもとに、(1)長期予察(~1カ月程度):7月以降の韓国沿岸及び九州北部沿岸での発生状況とその際の風向風速(特に南西寄りの風)の監視、(2)中期予察(~1週間程度):対馬暖流流路の検討、衛星画像による高クロロフィル濃度域の時空間変動監視と粒子追跡シミュレーションによる赤潮到達可能性の検討、(3)短期予察(~数日程度):調査船による現場調査(有害種細胞数密度等)、衛星画像による高クロロフィル濃度域監視、山陰周辺海域の気象・海象条件の検討、という3段階での赤潮監視・予測の手順を設定した。2009年度は上記に従って赤潮監視・予測を行う予定であったが、対馬暖流上流域での大規模発生がなかったことから検証できなかった。2010年以降も上記手順の検証・手法改良を続けることで、山陰沿岸における赤潮被害軽減に役立つことが期待される。
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