研究概要 |
本研究の課題は, 市場制度や経済発展水準の異なる二つの国, 具体的には, 中国とわが国の農村共有資源管理を対象として, 両国の比較を通じて, ソーシャル・キャピタルが農村共有資源管理に果たす役割を明らかにすることにある。 本年度は, 中国雲南省農村において収集した灌漑管理に関するミクロデータを用いて, 中国農村における農村共有資源管理メカニズムを検討した。特に, 調査対象地域が少数民族の居住地域である特徴を生かし, 農業集落の社会的異質性と共有資源管理の関係に着目した分析を行った。分析では,集落の社会的異質性の共有資源管理への直接的な影響経路を検討するのではなく, 集落の社会的異質性と関係を有する水路管理人の選抜プロセス, 水分配の方法ならびに灌漑システムの資源属性を経由した, 間接的な影響経路が共有資源管理に及ぼす影響を検討した。 検討の結果, 集落内の民族的な異質性は, 水路管理人の選抜プロセスや集落の水管理条件といった間接的な経路を通じて, 取水をめぐるコンフリクトの発生数や盗水の発生といった形で, 灌漑システムの管理水準に影響を及ぼしていることがわかった。つまり, 集落の社会的異質性は, 水路管理人による選抜プロセス・利益分配ならびに水供給条件などの灌概システムの資源属性といった間接的な経路を介して, 共有資源管理の成否に影響を及ぼしている。これらの点は, 昨年度, わが国の農業集落の社会的異質性が共有資源管理に影響を及ぼすことを明らかにした, 本研究の結果と整合的である。ただし, 以上の分析には, 方法論上の課題が一部残されている。このため, これらの課題に改善を施した後, 得られた結果を学術雑誌等にて公表予定である。
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