研究概要 |
本研究の課題は,わが国と中国の比較を通じて,ソーシャル・キャピタルが農村共有資源管理に果たす役割を明らかにすることにある。 本年度は,農林水産省『農林業センサス農業集落調査』における1980年,1990年,2000年の集落個票データから北海道,東京都,大阪府,沖縄県を除く43府県の各50集落を無作為抽出し,パネルデータを構築するとともに,これを用いて,わが国農業集落の農村共有資源管理メカニズムを検討した。また,日中比較を通じて,農村共有資源管理に影響を及ぼす共通の要因を検討した。 検討の結果,パネルデータの分析により,(1) 集落の規模は共有資源管理のための共同行動の実施に影響を及ぼさないこと,(2) 寄合回数に代理されるソーシャル・キャピタルは共有資源管理のための共同行動を促進すること,(3) 農業集落構成員の多様化や非農家率の上昇といった集落の社会的異質性の進展は,一定水準まで共同行動を促進する一方,その水準を超えると,共同行動の阻害要因となることがわかった。共有資源管理に関する大半の先行研究で用いられてきたクロスセクションの小規模サンプルでは,水系や地形など対象地域固有の要因と普遍的な要因を峻別して,共有資源管理メカニズムを検討することは困難であった。本研究では,大規模なパネルデータを用いて,地域固有の要因や時間効果をコントロールしつつ,わが国農業集落における社会的異質性と共有資源管理の関係を明らかにした。こうした関係は,昨年度検討した中国農村にも存在しており,日中農村に共通する普遍的な関係であることが示唆された。以上より,日中農村の比較を通じて,先行研究において確定的な結論の得られていない,集団の社会的異質性と共有資源管理の関係について,一定の普遍性を有する知見を得ることができた。なお,得られた結果は,今後,学術雑誌への投稿を通じて,公表を図る予定である。
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