研究概要 |
研究の初年度に当たる平成19年度は,主に先行研究の整理と分析視覚の確立に努めた。また,漁場管理を巡って問題が発生している地域(鹿児島県,沖縄県,長崎県)を中心に実態調査を行った。 その結果,近年,大手資本がクロマグロ養殖を中心とする漁業生産段階への進出を強めている実態が明らかになった。さらには,商社等が強力なバイイングパワーを背景に水産物を好条件で購入しており,従来まで水産物流通を担ってきた漁協系統団体が販売ルートから外されるケースも発生していることが明らかになった。 それに伴って,いくつかの問題点の存在が明らかになった。第1は,区画漁業権の運用と漁場管理である。外部の大手水産資本と地元漁業者との間で,海域利用および漁業権行使を巡って対立を生むケースが相次いでいることが明らかになった。その一方で,誘致した大手水産資本が漁協へ支払う区画漁業権行使料が漁協経営上欠かせない位置づけにあることも明らかになった。第2は,漁協のあり方についてである。区画漁業権は漁協管理漁業権であり,多くの漁協は地元漁業者へ優先的に行使させている。しかしながら,それらの漁業者の経営規模は零細であることが多く,漁協経営上の利益にはなりづらい側面がある。その一方で,大手資本へ行使させれば多額の行使料と生産活動に伴う販売・購買事業からの手数料が期待できる。地元漁業者の振興と漁協経営の維持の狭間で,舵取りできない漁協も少なからず存在することが明らかになった。 こうしたことから,平成20年度は沿岸域における区画漁業権の運用実態を中心に調査・検討する。
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